去年のはなし。
夕方、突然ザーザー雨が降ってきた。
自転車だった私は、雨やどりに近くにあった大好きなカフェに滑り込んだ。
少し濡れてしまった上着が冷たくて、とにかく何か温かいものを飲みたかった。
「これは、どういう飲み物ですか?」
注文をとりにきてくれたMさんに尋ねてみると、
「えっとねえ、これはインフルエンザとかも治っちゃうやつだよ。」
という、かなり?な返事が返ってきた。
私はそのとんちんかんな答えがとても気に入って、その飲み物を注文した。
実のところ、そのときの私は深く深く落ち込んでいて
何日間か、何も食べれなかった。
誰かといても、1人でいても、空虚な気持ちで
何を見ても、何を食べても、興味がなかった。
心が風船みたいに私の身体から離れて、ふわふわ宙を浮いていて
かろうじてつながっている1本の線はいつでも切れてしまいそうだったと思う。
人はこういうふうに停止してしまうことがあるんだなあと
自分のことながら冷静に思っていた。
窓の外はついに本格的な大雨で、しばらく帰れそうにもない。
まだ明るいはずの空は、雨のせいで夜明け前みたいな薄暗さだった。
外に人が歩いているはずもなく、
カフェには私一人きり。
しばらくすると、Mさんがニコニコしながら飲み物を運んできた。
かわいい小皿にのった透明のグラスに
ゆらゆら湯気がたった透き通った薄いきいろのそれが
エルダーフラワーだった。
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ふんわりマスカットのようなやさしい匂いがした。
コーディアルのタイプを使っているらしく、甘くて喉にきゅっとしみ込む。
果てしなく、あったかい気持ちになった。
何といってもインフルエンザも治ってしまうのだ。
最近、エルダーフラワーを手に入れたわたしは、みんなに飲ませてあげている。
勿論、「インフルエンザも治っちゃうやつだよ。」と説明することにしている。